@phdthesis{oai:uec.repo.nii.ac.jp:00000920, author = {井上, 大輔 and Inoue, Daisuke}, month = {2016-09-15}, note = {2013, 摩擦現象は我々の日常生活にもっともなじみ深い物理現象である.しかしながら,そのメカニズムには未だに不明な点も多い.近年の計算機の発達と走査プローブ顕微鏡(SPM) や表面間力測定装置(SFA) 等の計測技術の発展により,ミクロな視点から摩擦のメカニズムの解明を目指すナノトライボロジーが発展している.ミクロな視点による摩擦現象の理解は摩擦の制御へと繋がり,理学的のみならず工学的にも重要な意味を持っている.摩擦は見かけの接触面積で一様に起こるわけではなく,真実接触面と呼ばれるナノスケールの接触面において,荷重,温度,湿度や物性に依存する形で起こる.その為,ナノスケールの接触面における力の情報は摩擦現象を理解するうえで重要である.また,摩擦はしばしばエネルギーの散逸の物理であると言われる.例えば,固体に運動エネルギーを与え有限の速度で滑らせると固体はしばらく滑った後に止まる.このとき,固体の並進運動エネルギーは摩擦によって散逸し固体内部の分子の運動に非可逆的に変換される.つまり,『ナノスケールの接触面』において『どのようにエネルギーが散逸していくのか』を知ることが摩擦現象の理解には必要である. 本論文は,ナノスケールの接触面における摩擦によるエネルギー散逸の測定を目的とし,それを可能とするために原子間力顕微鏡(AFM) と水晶マイクロバランス法(QCM) を組み合わせたエネルギー散逸顕微鏡の開発と種々の基板におけるエネルギー散逸測定の報告である.本論文は以下の6 章から成る.第1章では本研究に先立ち,摩擦研究の歴史,特にトムリンソンによる原子的スケールにおける摩擦モデルの紹介し,ナノスケールの接触面におけるエネルギー散逸の理解の重要さについて述べる.第2章では本研究に関連する先行研究を紹介する.Mate らのコンタクトモードAFM を用いた摩擦力測定からは基板のポテンシャル構造を反映した摩擦力像が得られている.Pfeiffer らのラテラルダイナミックモードAFM では探針と基板の接触に伴うAFM カンチレバーの共振周波数の変化やエネルギーの減衰が観測されている.更に,Johannsmann らの開発したナノインデンターと水晶振動子を組み合わせたインデンタープローブQCM を用いたマイクロメートルスケールの接触面におけるエネルギー散逸測定を紹介する.第3章では,本研究で新しく作成した実験装置について説明する.まず,AFMを用いた荷重の検出方法について述べる.次に,応力およびエネルギー散逸の測定に用いたQCMについて説明する.QCMに用いる水晶振動子にはAT カットとSC カットの二種類を使用した.AT カット水晶は室温付近での温度特性が良く長期安定度に優れ,SC カット水晶はQ 値が高いため高感度でエネルギー散逸を測定することが可能である.本研究は,鋭いAFM 探針を厚み滑り振動中の水晶振動子の電極(基板) に接触させることでナノスケールの接合部を形成し,接合部におけるスティフネスとエネルギー散逸の変化をQCM により水晶振動子の共振周波数の変化とQ値の変化として高感度に検出するという特徴を持っている.本測定手法は,水晶振動子の厚み滑り振動の振幅は入力電圧の振幅を変えることで簡単に制御できること,更には基板に働く力を応力と摩擦力の成分に分解し同時に測定できるという利点を持つ.第4章では,エネルギー散逸顕微鏡本体の構成と測定に使用した(1) グラファイト(Gr) 基板,(2) C60 フラーレン基板および(3) Au 基板の試料作製法を説明する.第5章では,種々の基板における実験結果ついて述べる.本研究では,I 動摩擦力の基板ポテンシャル周期依存性,II 動摩擦力の基板速度依存性,III 動摩擦力の荷重依存性の3 点に着目し実験を行った. I については,ポテンシャル周期の有意に異なる2 基板を用意し,滑り距離0.01nm から10nm の範囲で動摩擦力の測定を行った.測定基板はAT カット水晶上にGr 基板(格子周期0.246 nm),C60 フラーレン基板(格子周期1.0 nm) を用意した. II については,水晶振動子の高次振動モードを用いて,同一の探針・基板において振動速度のみを変化させた上で,動摩擦力の基板振幅依存性を測定した. III については微小荷重用の光てこAFMと高感度なSC カット水晶を用いて測定を行った.測定I は自己検出方式AFMとAT カット水晶,測定II およびIII は光てこ方式AFMとSC カット水晶(Au 基板)を用いた.測定I により,それぞれの基板のポテンシャル周期を境に周波数シフトΔfR/fR とQ値の変化Δ(1/Q) の振る舞いが大きく変わることが明らかになった.測定II で得られた動摩擦の基板振幅依存性は測定I で得られた結果と定性的に同じであり,更にΔ(1/Q) の極大は同一速度ではなく同一振幅において起きており,摩擦の振る舞いは基板の振動振幅によって変化することが明らかとなった.測定III では,測定I では得られなかった応力やエネルギー散逸の荷重依存性が観測された.この荷重依存性は冪的な振る舞いをしており,探針先端と基板の弾性変形により定性的に説明できる.動摩擦の基板振幅依存性は,1 次元Tomlinson モデルを用いて定性的に説明することができる.モデルによれば,ポテンシャル周期以下の振幅では探針は基板ポテンシャルの極小点近傍で振動しており,この運動によってエネルギーが散逸する.その一方でポテンシャル周期を超える領域では,ポテンシャル障壁を越えて加速して駆け降りるという運動に変化するため,小振幅領域に比べてエネルギー散逸量は大きくなる.しかし,単位長さあたりのポテンシャルの数は一定であるので単位長さ当たりのエネルギー散逸(平均動摩擦力)は一定となると説明される.第6章では本論文の結論をまとめ,今後の展望について述べた.以上,本論文では,新しく開発したエネルギー散逸顕微鏡を用いて,荷重,基板振幅,基板速度を制御した動摩擦測定について報告している.測定により探針が基板ポテンシャル障壁を越えるか,超えないかが摩擦の振る舞いを決めるということが明らかになった.}, school = {電気通信大学}, title = {ナノスケールで滑り距離を制御した動摩擦の測定}, year = {}, yomi = {イノウエ, ダイスケ} }